欧州特許実務:中国バイオ医薬企業向け EPO 審査実務、有効性リスクと事例解説
2026-09-13
一、中国バイオ医薬企業の欧州での特許出願が加速、保護の質が次の焦点となる
EPO の統計データによると、中国出願人による化学分野の欧州特許出願件数は近年顕著に増加しており、特にバイオテクノロジー分野における出願の伸び率は世界全体の水準を大きく上回っている。
二、出願書類の品質が将来の保護範囲を決定:EPO 新規事項基準による補正の課題
EPO は補正が新規事項を導入しているかを判断する際、いわゆる「ゴールドスタンダード(Gold Standard)」を適用する。この基準によれば、補正後の技術方案は、当業者が元の出願書類全体の内容と公知常識に基づき、直接かつ疑義なく(directly and unambiguously)導き出せるものでなければならない。
この基準は、ある技術的特徴が明細書に単独で記載されているからといって、審査段階で自由に抽出・組み合わせ・再構成できるわけではないことを意味する。元の出願書類は審査段階で自由に特徴を選べる「特徴の貯蔵庫」ではない。
EPO 実務において、新規事項のリスクは主に以下の 5 つの場面で生じる。
第一、中間的な一般化(Intermediate Generalisation)
第二、異なる実施例にまたがる特徴の組み合わせ(Combinations across embodiments)
第三、複数の選択肢リストからの選択(Selections from lists)
第四、数値範囲の端点(Range Endpoints)
第五、技術的特徴の削除(Removal of Features)
EPO は技術的特徴の削除が新規事項に該当するか判断する際、「三段階テスト」(three-step test)を用いる: ①当該特徴が元の出願書類において明示または黙示的に非必須の技術的特徴と記載されているか。 ②当業者が、当該特徴が発明の目的を達成する上で必須ではないと理解できるか。 ③当該特徴を削除した場合、その他の技術的特徴に対応する調整が必要とならないか。 上記すべての条件を満たした場合に限り、当該特徴削除の補正は新規事項を導入しないと判断される。
三、出願後追加データは万能な救済手段ではない:出願日時点の技術的基礎が救済の余地を決める
EPO 実務において、出願後追加データは進歩性判断と十分な開示の判断で適用ロジックが異なる。
(一) 進歩性判断:追加データは既存の技術的効果を補強可能
追加データは、元の出願に基礎が存在する技術的効果を確認・数値化・比較・補強するために使用できるが、出願日後に新たな技術的貢献を創出することは認められない。
(二) 十分な開示の判断:出願日に裏付けがなければ追加データで補完できない
医療用途クレームの作成にあたって、企業は出願段階から技術効果を裏付ける証拠基盤(代表的な実験データ、作用メカニズムの根拠、クレーム範囲をカバーする実施基礎、保護レベルごとの予備的方案など)を事前に整備する必要がある。
四、医療用途クレーム:中欧の保護の相違と EPO 実務
欧州と中国では医療用途クレームの保護形式・審査ロジックに明確な相違が存在する。欧州では第 2 以降の医療用途について「目的限定製品クレーム」(purpose-limited product claim)の形式で保護を受けられる。一方、中国では主にスイス型クレームが用いられる。
注目すべき点として、EPO は医療用途クレームの限定の仕方に柔軟性がある。例えば投与量レジメ、投与方法、患者グループ分けなどもクレームの技術的限定となり、従来技術との相違点を示す要素となり得る。
五、所有権と権利継承関係:欧州特許出願で見落とせない基礎的リスク
企業は完全かつ正確な権利継承連鎖(発明者(inventor)→雇用者(employer)→出願主体(applicant))を確保する必要がある。
特に以下の点を確認しなければならない。
・発明者と雇用者の間で有効な権利移転手続きが完了しているか
・雇用者が実際の出願主体に権利を譲渡する法的基礎を備えているか
・権利譲渡の手続き順序が明確かつ完全か
複数の主体・法域にまたがる特許出願において、事前に権利帰属の手配を完了することは手続上のリスクを低減するだけでなく、今後のライセンス、権利譲渡、特許権行使の場面での障害を回避することにつながる。
六、早期審査制度:EPO 手続を活用し審査効率を高める
EPO において、PACE(欧州特許出願早期審査プログラム、Programme for Accelerated Prosecution of European patent applications)が最もよく利用される早期審査ルートである。PACE 請求により、欧州特許出願の調査・審査を加速させることができる。
状況に応じて下記の手続も検討できる。
・PPH(特許審査ハイウェイ):関連出願が他庁で有利な審査結果を得ている場合、EPO の審査を促進できる。
・Early Processing(早期処理):一定の条件のもと、EPO に手続の早期開始を請求できる。
出典:IPRdaily
2026 年 7 月 21 日